ただいま、に向けて
霜天

また、ここに夏がやってくる
僕の広げた手のひらの内側
少しうつむきがちな背中にも
広げた葉っぱのトンネル
その先の坂道は空へ消えていく
青い青い夏、遠い遠い世界
少しずつこの街からは何かが剥がれ落ちていく
夏が濃くなるたびに
空は透明になって
街は静かに平らになっていく


蝉の声は何処へ離れていったんだろう
それを追いかける子供の背中は、何処まで小さくなったんだろう
それを何気なく見ていた僕らは、何処まで遠くなったんだろう
気付かない、そんな仕草を真似してばかりで
足元はいつの間にか
足跡だけになってしまった

みんなが、たっぷりと夢を見た後で
この街にも起伏が戻ってくる
それももう、名残でしかない
戻れないことを知ってしまえば
顔を見合わせて笑うばかりで
また、夏になるために
アクセルを踏み込んでいく
飛行する
そんないつかに向かって


ただいまと伝える
徐々に平らになっていくこの街に
人の匂いも、忘れ物ばかりで
懐かしむには少し足りない

ただいま、に向けて
僕は僕らの場所だった夕暮れを
少しずつ掃除し始めている


自由詩 ただいま、に向けて Copyright 霜天 2005-07-01 00:11:45
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