キルトに綴る、その鍵と
プテラノドン

いまだキルトを綴るという
針の動き、
広がる愛を不安と呼んだ彼女よ!
違う!僕はそう思わないよ

歓楽通りを歩いていると、
後をつけてくるとかいう例の老人がやって来て、
不眠症の男に地図を渡した話。
 男は丘に向かう途中、懐かしいレコードを口ずさむ
着いたそこには、乾いた水色の扉が一枚
立ててあるだけ。鍵穴は大きすぎた。おまけに
ドアノブから細い女の手首 が出ている。
その手を掴み扉を開ける。(指輪を無くした女の手)
向こう側に港町が見えた。「行かせてくれよ」
男は何度もそう言ったが扉の手は離してくれない。
身動きしない彼は、何かこう、事態は幸せな方向へと導かれていると
思えてきて、そのまま夜を迎えるつもりだった。
それは多分、見習い会計士の彼女が 
意味深な表情を浮かべ窓の外へとよそ見する、当たらずしも遠からず、
そんな昼下がりを二人は過ごしているんじゃないかと感じたせい。
「だからこれは、君の手じゃないか?」と、彼は
眠りに着く前に訊ねた。すると
「御名答!」と言って、例の老人が扉の向こうに再び現れる。
さっと女の手が離れた。見計らっていたかのように
老人はバタンと扉を閉めた。(なんてもの悲しい音だろう)
鍵穴から、オフィスの中を歩き回ったり
忙しくパソコンのキーボードを叩く音が洩れている。
男は彼女の存在を確認しようと、扉に手を当てて覗き込む。―その矢先に、
彼の手は扉の向こう側へと吸い込まれた!
その手を誰かが掴み、ゆっくりと 扉が開く音がする。そしていま 
ようやく彼女の姿が―、
 
 アメリカのどこか。キルトを綴る女達。ハートの中に
つながれていく手と手。その光景を男は、もう何ヶ月も前から
ロッキンチェアーに座って眺めていた。ある夜、
キルトの中はもぬけのからとなった。トウモロコシ畑を抜けて
町を目指す男のうしろを、手だの、鍵だの、もろもろの愛がついて歩く。
どうやら、その長い列は まだまだ果てることはなさそうだ。




自由詩 キルトに綴る、その鍵と Copyright プテラノドン 2005-06-29 14:00:15
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