荷物違い
服部 剛

若い頃
「やさしさ」は理想の全てで
自分や人の 心も 体も
真っ白なペンキで塗りたくろうとしていた

大人になるにつれ
白いペンキはふしぶしでがれ落ちた

テレビの箱の中はエルサレム
「自爆テロで数十人死傷」のニュースを
なげいて画面を消した後

ほら
すぐに
ささいなことで
隣の君と小競り合いが
勃発ぼっぱつしてるよ

一人こもった夜の部屋
ふとんをかぶった耳元で
黒い小人がささやいた

「おい、Mr・偽善君、
 まだ気付こうとしないのかい?
 サファイアのようなまなざしをそそいで
 人間の 血 生 臭さ を
 溶かせるとでも思うのかい?   」

体中で 欲望と争いの火種が
充血した目玉をうすら笑いでひらいては
果てない細胞分裂を繰り返す

昔々
「自由って一体何だい?」 *
って拳を突き上げうたってた誰か
の言葉に酔いしれた十代の立ち位置から
不器用な歩みで
いろいろな人と出逢い
曲がりくねった道を伸ばしてきたが
いつのまに
「自由」の靴を
き違えていたようだ

(人生と 墓場の色は 白じゃない)

日頃のいらいら虫を忘れたい休日
気分を変えようと街に出る
一人 坐る カフェの窓
緑の山の頂に
ぽっくりあらわる かんのんさま
目を閉じて 静かに口を 結んでる

「ゆるしておやりなさい
 裸をさらす あなた自身も 人々も

 何度でも 非力な腕で
 力を合わせてごらんなさい」

紅茶を一口すすった後に
愛読書を詰め込んだリュックサックをひらいたら
仕事の書類の束が出てきた
あまりの馬鹿さに思わず
  「ごん」
額をテーブルに落とす

いらいら虫で視力を失い
違う荷物を持ってきて
道を引き返すのは たいへんだ


 *尾崎豊「Scrambling Rock'n'Roll」より引用 













































自由詩 荷物違い Copyright 服部 剛 2003-12-06 00:41:53
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