erupt
ホロウ・シカエルボク
凍える夜を切り裂くように言葉はやって来る、俺はもはや衝動なのか見えざるものの意志なのかも判別出来ないまま、とり憑かれたようにキーボードを叩いている、オーバーイヤーのヘッドフォンの中では死ぬ間際のチェット・ベイカーが世界一冷たいペットを鳴らし、夢遊病のように歌い続けている、おそらく彼がそんなプレイの中で見ようとしていたものと、俺がこうして言葉を並べることで見ている景色はあまり変わりがないような気がする、だからこそ俺はいままで生きて来ることが出来たし、彼だってそうだろう、まあ、結局のところは、謎の転落死を遂げてしまうわけだけれど…おっと、俺の話じゃないよ、チェット・ベイカーの話だ、俺はまだしばらく死ぬことはないだろう、何故かって聞かれても困るけど、役割を持っている人間は死んだりしないものさ、これは俺の持論だけどね…現代は人間を生かすための世界じゃない、だから老若男女問わずあちこちで飛び降りたり首を括ったりしている、生きていても意味が無いと感じるのは当然のことさ、あらゆるものが形骸化してしまって、それでもそれにしがみついて生きているやつら、矛盾が生じるのは当り前のことだ、目的が違い過ぎる、欲望が浅過ぎる、ひとつの物事にひとつの見方しかないと考えている、それは人間が生きるための世界じゃない、でもみんなそれが大事だって信じて疑わない、ほぼ同じ絵が続くだけの八十年、百年を生きて、自分の名前も分らないまま寝たきりになって点滴で摂取する栄養をただ循環させながら泥のように死んでいく、みんなそれを幸せだって言うんだ、いい加減にしなよ、もう少し真面目に考えるんだ、分かりやすいものばかり見ていると分かりやすいものしか見なくなる、理解するための努力というものを放棄してしまう、人生はお使いゲームじゃない、フローチャートなんか存在しないものこそが人生と呼ばれて然るべきものさ、夜が深くなると内奥にある者たちの声が良く聞こえ始める、それに耳を澄ましながら出来る限りのものを拾い上げる、あまり選ぶことなく並べていく、インスピレーションは先着順に並べていくのが一番良い、そうしないと必ず無理が生じる、型に囚われれば必ず魂を失う、スタイルなんて勝手に出来上がっていくものだ、こだわりがあるのなら今すぐ全部捨ててしまうべきだよ、そんなものにはどんな意味も無い、イズムが詩を書くと思っているのならもう書くのを止めた方が良い、音楽が楽譜から生まれたわけじゃないことを知らない人間だってたくさん居る、だからJ―POPがセールスをキープし続ける、自然発生的に生まれてくるものの力、水が湧き出して流れるように、火が燃え上がるように、気温が下がれば氷が生まれるように、詩だって生まれて来るべきなんだ、大切なのは自分のリズムを知ることだ、どんなリズムの中で思考を繰り返しているのかを読み解くことだ、そうすればリズムに乗っているだけで色々なものを引っ張り出すことが出来る、思考が浮上してくるよりも早くそれを書きつけなければいけない、一度意識の中に入れてしまえば指先はスピードを失ってしまう、そういえば演劇をやっていた頃、俺はアドリブが大好きだった、エチュードというやつだ、シチュエーションだけ決めて、舞台に投げ出される、覚悟さえ決めてしまえば言葉や動きはとめどなく流れ出す、行きたい方へ行けばいい、そうすれば舞台は勝手に物語を作り始める、一人で続けてもいい、誰かが入ってくるならそれでもいい、もしかしたらあらゆる表現形態の本質は、そこに存在している空気と語ることなのかもしれない、一瞬の連続を出来るだけ細かく切り刻んでいくんだ、そうしてフィールドに投げ出していく、遅れてはいけない、途切れてしまった流れは二度とは取り戻せない、スピードを保つこと、それをコントロールすること、衝動のレースさ、ステアリングをキープし続けるんだ、コースアウトすることは許されない、一秒あれば運命は大きく変化する、そして、それがどうしてなのかは俺には決して分かることは無い―昔はそのことがジレンマだったよ、でも最近はそんなことどうだっていいと思うようになった、どっちにしたって書き続けることに変わりは無いんだから…水が流れることに理由を求めても仕方が無い、火が燃えることに理由を求めても仕方が無いんだ、そこに生まれるものをどれだけキャッチしていくのか、結局のところそれだけが大事なことなのさ、理由が分からなくたって人間は動ける、それが必要なことだと本能で理解出来ればね、本能を曇らせちゃ駄目だ、野性を絶やすまいという思いが俺に書くことを求めているのさ、このサイズを一気に書くときに俺がどれくらいの時間をかけるか知っているかい?だいたい四十分だ、それ以上速くなることは無い、遅くなることはたまにあるけれどね、それだけあれば充分なのさ、それが俺のスピードであり、リズムなんだ、もちろん速く書いたからって良いなんていう話じゃない、しいいえば俺の中に在る情熱はそういう形で噴出するのが好きだっていう、それだけのことなんだ。