怒りと愛
杉原詠二(黒髪)
愛には対象が必要だ
自己愛でさえ他者がいて成り立つ
ひとりぼっちでは自己を愛せない
自己愛は他者の視線の中にいなければ
成立しないのだ
自己の愛情に他者が愛を返さない場合に
怒りが生じ自己中心へと移る
愛が消えた瞬間である
つまり愛は尊重されなければならない
無私なる愛を向けたとしても
愛自体に尊厳を向けなければならない
それはつまり
無私の愛であるとしても
その対象が存在しているということだ
それはつまり無我ということだ
自性を持った自己が存在しないので
愛が対象に依存しているという構造を
乗り越えることは出来ないのだ
縁を切った場合
愛は届かなくなる
つまり
怒りのすべては
縁を切ることに対して生じるのだ
しかし怒りは形を変え得る
悲しみになるのだ
怒りと悲しみは双子である
残念であるという思いが
それらを呼び覚ます
相手を変えたい場合は怒り
変えられない場合は悲しむ
破壊より涙を
怒りより悲しみを
わたしはかつて他者の自死に対して怒った
しかし本当は悲しまねばならなかった
死は変えられないということに
理解が足りなかった子供の頃のこと
わたしはそのとき
自分の異質性に気づいていた
残されたものの気持ちを考えない
自殺者の勝手さに怒りを覚えた
しかし自殺者も好きで死んだわけではない
責任はどこにもなかったのである