村はずれの一本の冬道に、街燈はじっと立っていました。
雪はさらさらと降りしきり、夜は息をひそめています。その静けさは、まるで遠い昔、この世がまだ素朴だった頃の記憶を遠くに思い出させるようでした。
月が雲の切れ目から顔をのぞかせると、青く澄んだ光で街燈の笠を照らし、やさしいとも、さびしいともつかぬ声で話しかけました。
「お前は、こんなところで、まだ光っているのかね。この道を通る人も、もういまいに。」
街燈は、ひと呼吸おくようにして答えました。
「わたしは、ここを照らしているだけでじゅうぶんです。雪の下では草花が、春を待っているでしょう。小さな命が目ざめるとき、この道が暗くては、夢まで暗くなってしまいます。」
その声には、「誰かのために光ること」こそが自分のすべてだという、かすかな誇りと、自らの務めを信じてきた素朴な真心が宿っていました。
けれど月は、静かな事実を告げます。
「しかし、人々はもう、新しい大きな道を通るのだよ。家々の灯りはまぶしく、この古い道の灯は、もはや誰にも頼まれておらぬ、ただの飾りだ。」
街燈は何も言わず、ただ光を強くしました。それは、役目を失った自己の存在を、光の力でねじ伏せようとする、そんな幼い意地のようでもありました。誰にも求められない献身は、やがて空虚な熱となって、足元を昼のように明るく照らしました。
そのとき、一片の雪がそっと街燈に舞い降りました。
雪は、光の揺らぎの奥に、涙が小さな虹となって光っているのを見つけました。
――街燈は泣いていたのです。
気づかれぬよう、声も音も立てずに、ただ、役目を手放したくないという最後の願いを込めて、いっそうまぶしく道を照らしていたのでした。
雪が声をかけようとした瞬間です。
パチッ、と小さな音がして、街燈の光がふっと消えてしまいました。
夜は一層静まり、すべての音が遠のき、時代が切り替わったかのように感じられました。雪道を照らすのは、月の冷たく、けれど雄大な光だけになりました。
雪は胸をしめつけられ、せめて消えた街燈のかわりになろうとして、白い身をきらきらと輝かせました。それは、失われた温もりへの、静かな弔いの光でした。
春がめぐり、雪が消えたある日、長いあいだ沈黙していた街燈には、再び灯りがともりました。
しかしその光は、どこか柔らかく、過ぎていった冬の痛みと、雪のやさしい祈りをそっと抱えたようでした。
古い役目が終わり、新しい時代が来ても、消えた一瞬の光の記憶は、人々の胸のどこかで、人生の道筋を照らす、やさしい灯りとして静かに息づいているのでした。
※※原作「街燈」を修正しました
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