静かな風景
初代ドリンク嬢

黒いシャツにズボンじゃなくてスラックスをはいた
あどけなさの残る女の子は
中学生くらい
うつむいて
診察室から出てきた
お父さんは座る場所を探していた

女の子は体とは不釣合いに
幼児用の絵本を
一字一字指で押さえながら
行儀よく座ってみていた
腕には注射が刺さったまま
となりには大柄なお父さん
行儀よく座って
タイマーの時間を気にしていた

二人は黙ったまま

      今日はとても天気が良くて
      川原の黄色い花が
      「私は黄色
       私が黄色よ
       私こそが黄色なのよ」って声を出しているみたいだった


「おとうさん」
小さなかわいい声がした
「これはなあに」
「うん、それはこの子がゆってることだよ」
お父さんは指で「この子」らしい箇所を指した
『この子』のところにはうさぎちゃんが
お誕生祝いをしてもらっていた

       病院の庭には名前の知らない
       小さな白いすずらんのような形をした花のなる木がある
       今度
       調べて娘に教える約束をしながら
       いつも忘れてしまう


病院のソファにふたり
静かに座って


       私は
       なぜだか
       涙を流していた。


未詩・独白 静かな風景 Copyright 初代ドリンク嬢 2005-06-01 23:04:46
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