『exist's』~霧子の朝に
洗貝新
葉ずれがざわめき
あれは風の悪戯だろうか
枯れ松が雑木林に姿をかえて
翠波はうつろう闇に身を隠している
湿気を帯びた月のない夜には
点字を探るように朧気に支配されていく
細長い用水路から狭い路地に向かう
不気味なのは暗いだけじゃない
野鳥の鳴き声が追いかけてきて
草むらから二つの眼が光る
わたしを
無窮の地へ誘いだしたい
の様子にみえる
何杯目かの珈琲を注ぐと
あたまの中は靄でいっぱいになり
雑木林を抜けると砂地がひろがる
指先の乾いた夜には
少しだけ緩めた弦を弾いてやる
いつまでも鳴り響くように
朝は晴れるだろうか
園児たちが音のないオルガンに歌う
遠く霞んだ教室に一人立たされていた
どうして泣いているの
微細に
砂埃り舞う小さな運動場から聞こえてくる
にぎやかに躍る薄青い歌声
大人になったいまでも覚えている 何故か
二人の女児の名前~かほこにちえみ 何故か
姉と幼なじみが覚えていた
白い乳房をぶら下げて咲いていたリュウゼツランの花が
今年は抜け落ちた白髪のようにやつれている
母が亡くなってから三年目の年だった
月灯りの中で浮かび上がる白い衣装
水気を帯びた草息の気配に虫たちの饗宴
暗闇は白い影を映し出して
墨汁に意識はゆらぎ
砂場に迷走するわたしがいる
胸に
今晩わ
あなたは誰?
何処で、どんなこと、 帰路を
まにまに
屈折に横切る 鏑木な目線
点滅の黄ばみ
指先から手繰り寄せてみる記憶は
輪唱
キリギリギリ
茫漠と巡る
夢だけが
歩いていく
霧の中を
※推敲中です。