百を足りて伏しやまず
菊西 夕座
ゲジゲイジュの姫君は百たりて笑い転げ こらえきれずに突っ伏してなおも笑った
もうしぶんのない美貌が指揮者を射止め 彼女の胸にオーケストラを響かせたから
そのハーモニーは格調ある百の手を揃え ゲジゲイジュの美を至高にまとめ上げた
まるで夜空に高く打ちあがる花火の太陽 完璧な表現にくすぐられて彼女は悶えた
美を競いあって長くのびていた毛髪から 女王にえらばれた張りのある一本が抜け
抱えきれない栄光とともに香しくはじけ 清らかで透明な彼女の足元に落下すると
一匹のムカデが目ざとくひっくりかえり 群がる足の亡者を競わせてつかみかかる
洗練されぬいた艶光る漆黒の一弦を巡り 亡者たちの激しい奪い合いが楽を奏でる
足元からかすかに湧きおこる狂騒の音は 彼女の高貴な命がひとつ失われた葬送曲
その調べもまたふかく甘美な憂愁となり 彼女の頭にまでたちこめて心をまどわす
笑いからさめて身を起こしききいる姫君 その満ちた恍惚がまた漆黒の条を落とす
ゲジゲイジュの美はそのようにして老い しだいに頭皮もそげて綺麗な髑髏となる
それでも麗しい毛髪で補強された百足が 思い出ぶかい楽曲を奏でつつ這い上がり
彼女の頭に漆黒の弦で編んだ王冠を被せ 走りまわる狂騒で永久に不死て止まない