ト或ル朝
そらの珊瑚

昨日産まれたばかりの吾子は
わたしの横で寝ている
なんてかわいいのだろう
産毛のような髪の毛
耳も口も鼻も小さいけれど
とても精巧に作られていて魅入ってしまう
閉じられたまぶたの中でどんな夢を見ているのか
永遠と見ていても見飽きない
このかわいさをあなたと分かち合えないことが少し残念だ
戦争が終わってあなたがビルマから帰ってきたら
この宝もののような時間のありようを
ちゃんと伝えられるだろうか

にしても、いささか胸が張ってきてた
いくらでも乳は湧いてくるようだ
嬉しいことではあるのだけど
痛いので閉口する
幸せな痛み
生きていることの痛み

今日も晴れて暑くなりそうだ
あちらこちらで蝉がうるさいほどないている
さっきお隣のタオさんから
元安川で釣ったという魚をもらった
立派なチヌだ
今日の昼餉に七輪で焼いて食べよう
わたしが食べた魚が
身体の中で白い乳になり
それが
吾子の血となり肉となる
ずっと昔から繰り返されてきた
人の営みなんだなと思うと
この朝のことを
ずっと覚えていたい

どこにでもあるような
八月六日の朝の風景
だけど今ここにしかない
この朝の幸せを
ずっとずっと覚えていよう


自由詩 ト或ル朝 Copyright そらの珊瑚 2025-08-17 11:39:44
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