最愛の孤独の中で
由比良 倖


僕の部屋には郵便受けがない。でも架空の郵便受けに今日も神さまからの加速度が届けられるみたいなんだ。

本棚は花畑のよう。そこに今日も日が差している。

360、それはまるで弟の首のようだ。

本棚から水の流れる音がした。見てみるとブローティガンの本が並んでいるのだった。

冷蔵庫は真夜中の色をしていた。ドアを開けると夜に光が漏れだした。

星空が光っていた。レディオヘッドのヘイル・トゥ・ザ・シーフみたいな星空だった。

壁は太古の平原に繋がっている。戦いの記憶、そしてその向こうの石壁に。

BOSEのステレオはまるで青いガイストの渦巻く墓場のよう。

glass, green, pink, yellow, sour, hegemony, 僕の部屋には休みがない。歯車のガーデンパーティ、記憶中央の広場に連なっている。「名声」の字がカレンダーの裏に隠れている。

錠剤。囚人たちの日常。電話。線路の傍の子供たちの遊ぶ声。


孤独。病院の屋上でひとり風に吹かれているような。持ち物はウォークマン、砂漠、ピルケース。財布。ぼろぼろになった文庫本。ヘッドホンを着けている。病気。私のとてもまともな病気。鉄柵。

そして私は私の病気を深めていく。私に正常も異常もない。病気とは他者によって名付けられた他者としての私。私には何の異常もない。私が病気だというのなら、私は病気を深めよう。私が病気だというのなら。それが私なのなら。

存在は全て愛ゆえなのだ。

自然な好奇心は優しさと同義。自分の中に、惹かれる感覚があれば、それが優しさだ。優しさとは、分け隔てのない感覚。道に迷った旅人に、道を教えてあげたり、花に水をやるような感覚。

世界はありのままにひとつだ。世界の他には何もない。
私は、眠っている。私。私は世界だ。
そして全ては花や虫たちの夢だ……。

心の深淵を覗きたい。心の表面をどこまでも深く見つめたい。

ディスプレイ。私の両手、ギター。キーボード。ヘッドホン。ウォークマン。
カーテンが揺れている。


最後に残るのは、そして始まりの始まりからあったのは、やわらぎだよ。僕たちは動物。温もりから遮断された動物。

僕は僕の思考力と言語力の低さを嘆く。何も知らなくていいんだ。けれど思考力と言語力は必要。
僕は個人的な世界に住んでいたい。僕の世界全体が他から隔絶された病棟であるように。

世界は好きかい? 世界が存在していること。世界の隅々までが私だということ。全てが全て愛おしいもの。

自分がそこに帰っていく場所。個人的な、ものすごく懐かしい記憶。

洗濯機には洗濯機の神さま。音は音楽になる。不思議。


自由詩 最愛の孤独の中で Copyright 由比良 倖 2025-08-11 23:51:05
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