カンボジア大虐殺肯定論
室町 礼

わたしはテレビを観ないのでネットからの情報です
が、選挙で自公が惨敗した翌日のワイドショーで玉
川という人気コメンテーターがこんなことをいった
という。
「政治をよく知らない若者に投票権を与えるのは如
何なものか」
歯に衣を着せないご意見番としてお茶の間に人気ら
しいこの男は若年層の支持が多かった参政党の躍進
を揶揄してこういったのだという。ひらたくいえば
「バカが多いからこういうおかしな結果になった。
選挙権は知性のある者に与えればいいのだ」といっ
たに等しい。

この発言を知って、もうこの国の馬鹿馬鹿しい言論
情況には何をいっても無駄、阿呆らしいだけだから
やめたあ、と思っていたのに、どうにも腹の虫が収
まらない。
まるで熟れて地に堕ちた柿がつぶれてどろどろに腐っ
ているのをみるような醜悪な発言だとおもう。
わたしも政治には無知だがわたしたち庶民大衆が投
票行為によって意思表示するのは政治知識からでは
ないことは当たり前のことだ。物価が上がったり、
給料からあまりにも多くの税金が天引きされてイヤ
だなあと感じることは子どもにだって寝たきりの老
人にだって知的な障害のある子にだってある。
「これはたまらんから。政治家代わってもらおう」
そういう日常の生活感覚で既存政治家を否定したり
新しい政党に期待をこめて投票している人がほとん
どだろうと想像できる。
政治知識など関係ないのだ。
特権的知的エリートがいつも、必ず陥る歪んだ世界
観が玉川という自称「政治をよく知っている男」の
頭にだけ生起しているのではない。これはニューヨ
ークの知的特権的エリートの「合言葉」になって世
界中に流布されている言葉なのだ。
   「無知な者に投票権を与えるな」
かれらは投票行動に知性は関係ないことがわかって
いない。それは知識ではなく生きることなのだとい
うことがわからない。ところが政治や経済や文学は
われわれ頭もよく知性のある特別な人間だけが専制
的にやればいいのだというブームがニューヨークタ
イムズやCNNなどの媒体を通じて世界中に発信され
ている。
米の大統領選挙でトランプに票を投じた大衆の気持
ちの裏にあるのは、こういう思い上がった知的エリ
ートたちの腐りきった「倫理」を嘲笑うためである
ことは明白なのに、「政治をよく知っている」と言
いながら彼らは、ただ、大衆が頭が悪いからトラン
プに票を投じたのだと毎日のように書き、コメント
し、批評を垂れ流している。
この玉川もニューヨークの知的特権階級と同じく、
表向きはリベラルを装い、愚劣な差別批判を語るく
せ自分たちの根っこにあるどす黒く開花したファシ
ズムの存在に気がついていない。
これは玉川のような知的特権エリートの手の施し
ようのない病いなのだ。

カンボジアで大虐殺を引き起こしたサロット・サル
はカンボジアの貧農から出て政府の奨学金でパリに
留学し電気工学の傍らマルクスを学んだ。かれの天
才はある真理を見抜いていたのは確かだ。
 "知的特権階級のエリートたちが大衆を破滅させる"
かれはまだ精神が穢れていない子どもたちを武装させ、
かれらに医者、教師、政治家、文学者など知識人を選
んで殺させた。いわゆるキリングフィールドの虐殺で
ある。大量虐殺は狂気以外の何物でもないが、しかし
今になって彼が何を怖れ、何を見ていたか、わかるよ
うな気がする。
大量虐殺を肯定するわけではないとしても、サロット
・サルの見抜いていた世界はそれほど間違ったもので
はなかったのではないかと思っている。
知的エリートたちが傲慢に振る舞えば振る舞うほど
、これからも
カンボジアの悲劇は繰り返されるだろう。
そしてその逆の大衆の殺戮も。





散文(批評随筆小説等) カンボジア大虐殺肯定論 Copyright 室町 礼 2025-07-23 06:01:57
notebook Home