詩をめぐる診断
菊西 夕座
街の片隅に腰掛けていたのは、造園会社の2階がテラスになっている白い建物だった
高架橋の上から街医者になった気分で眺め、車を走らせながらざっくりと診断してみる
街並みを待合室に例えたときに、居並ぶ家屋のなかで造園会社はすでに重患だった
緑化への気概にあふれた2階テラスは閑散とし、夜逃げされた廃屋寸前の倒産社屋
1階に比べて2階の建屋はペントハウスのように小さく、回廊式のベランダに囲まれていた
つばの広いテンガロンハットのようであり、船の甲板のようでもあって開放感が好ましい
若く隆盛をきわめていたころには、回廊と張りだしたテラスに植木鉢をたくさん並べ
さらにベランダの鉄柵にも緑の蔦を這いめぐらせて、にぎやかな客船をきどっていたことだろう
ペントハウスの会議室からは東西南北、どちらへ出向いても緑の回廊で結ばれていたし
水をまきながら会議室のまわりを一周し、そこからテラスのほうへ植物園も築くことができた
伸び放題の豆の木がテンガロンハットのつばに鳥たちを集め、1階の職場にもさえずりが響き
非常用に貫かれた螺旋状の階段を薔薇でおおいつくし、優雅にくだる夕暮れも贅沢だった
2mを超える観賞用の植物が搬入されてきても、1階のガラス扉はそれを受け入れる余裕があった
いまはもう白いモルタル壁にくたびれた色がみられ、人気のない回廊がむなしくがらんとしている
テラスの鉄柵には錆がはびこり、看板は崩れ、放置されたままの植木鉢には黒く渇いた土がねむる
閉じきったガラス窓のまぶたをこじあけて、街医者がペンライトをかざしても造園の反応はみられない
ところが皮肉なことに、どこからかとばされてきた植物の種子が回廊の一角に種をやどして芽生え
荒れほうだいの雑草を予感させる一塊の腫瘍をつくり、そこから鈴なりの白い花を咲かせ始めている
これこそが詩であると診断結果をくだすとき、白衣をきて歌っていたのはもぬけの殻の園だった
どんなときにも花は患者をみはなすことがなく、落ちても朽ちるまでゆく営為にこそ詩は矜持される