東京青年
花野誉
シーズンを過ぎた大農家
私以外に
東京から来た青年一人
私の話す方言が嫌いなので
話しかけないでほしいと言う
ほほぅと思った
ある日の朝
東京青年と軽トラに乗り
山道を二人で行く
運転手は私
峠でギアが滑って
ずんずん坂を下がっていく
カーブが近づく
青ざめて叫び出す青年
それが少し小気味好かった
そろそろいいかと
サイドブレーキを引く
坂道発進
4WDのスイッチを押す
ぐいぐい上りだすトラック
顔色が戻る青年
その日から
話しかけても無視しなくなった
なんだそんなもんか、と気が抜けた