ラーメン
レタス

海の轟が寄せ還る寂れた街を彷徨った
街灯がぽつりと点り羽虫を寄せていた
ヤモリが一匹それを狙ってヒタヒタと柱を登ってゆく

腹が減った

赤いちょうちんと暖簾が風に揺れている
魚介豚骨醤油の匂いが漂ってきた
コクリと喉が鳴った
ガラリと引戸を開ける
ヘイラッシャイ!
オヤジは独り両手をカウンターに構えニコリと微笑み
オレを迎えた
客はただオレ1人

メニューはラーメンと特製ラーメンのふたつだけだ
迷わず特製を頼んだ
湯気が厨房を満たしている
待つこと約2分
オヤジは両手でドンブリを抱え
ニコリとカウンターの上に置いた
オレはドンブリが熱かったので
ドンブリの縁に親指と人差し指で慎重に手元に引寄せた

麺は中細のストレート
スープは澄んで背脂が浮き鼻をくすぐる
これは煮干、鰹節、鯖節、豚のゲンコツだろう
具は厚切りのチャーシュー3枚
拍子木のように角張った太いメンマが5本
煮玉子の半割りが2つ
九条ネギがコンモリ

まず、ネギをスープに浸し、レンゲで啜る
旨い! 続けてスープを2口
割り箸に麺を絡めて啜る
腰が強く噛み堪えがたまらない
チャーシューは箸で千切れトロトロだ
またスープを啜りメンマを一切れ
シャキシャキ程よい歯触りに醤油の香り
煮玉子はホンノリ薄味でスープに良く似合う

空きっ腹にこれでは旨すぎて軽い目眩がする
一気に食べ進みスープ一滴も残さずドンブリを空けた
これだけで1000円とは安い!
ご馳走さまと手をあわせお辞儀をした
オヤジはニコリと微笑んだ

ガラリと引戸を開け数歩歩いて振り返ると
店のシャッターは閉じていた
気が付くと腹は減ったままだった

街灯のヤモリが青白い蛾をハムハムと飲み込んでいた


自由詩 ラーメン Copyright レタス 2025-04-19 03:37:18
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