ツグミに想う
ただのみきや

帰り支度がすんだなら
明日にでも行くがいい
旅する天使はおしゃべりで
その上酒癖もわるいときてる
翼ある者は去るがいい
おまえたちの羽根のほとんどは空気
膨らんだ胸の中身さえ
絡みついた糸のような
そのさえずりの動線も
風にほどかれ透けていく

一年もあけずに帰って来るだろう
だけどそれは別のおまえたち
同じ川に二度足を踏み入れる者はいない
そんなことを言ったのは誰だったか
すべてはくりかえし
同じではない

積み重ねた齢の上に
黄砂のように降り積もる
沈黙のまま木乃伊みいら化した感情の塵芥
ことばの薄い布では包み切れない
歴史とか 民族とか
結び目のすき間からこぼれてしまう
遥かな幽霊たち その乾いた夢

朱い木の実も去年のもの
十分飲み食いしたのなら
行くがいい
たましいの磁針が差し示す
遥か彼方まで いくつもいくつも
止まり木バーから 止まり木バー
旅する天使はおしゃべりで
その上酒癖もわるいときてる
──せいせいするさ ヒヨドリは尾羽を振った
──じゃあまたな おれは遠目に見ているだけ


                  (2025年4月12日)








自由詩 ツグミに想う Copyright ただのみきや 2025-04-12 11:02:21
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