べつになにも
ただのみきや
彼の地を前に
疲労不調と思えたものを常態と受け入れる
歯車は銀光を放ち記憶は遠近を欠き始め
軟着陸を模索しては願うばかりと思い知る
春
光と霞に中り
出会いと別れの幻想に浸る
暴かれた墓に死の鮮度はない
新月
鋭くとがり
大きく欠けて
見える自分と見えざるこころ
満月
ありのまま全てお見せします
わたしは光の盃 ざらついた鏡
見えない部分は見せようがありません
恋は熱く
それは美しい箱 至高の包み紙
お値段は時価 破いてしまえば二束三文
生臭い中身の乾くころには花でも飾って
愛はつめたく
別にギリシャ語など引かなくても
痛み苦悩を拾い集める日々 誰かのために
流す自分の血の色を別段きれいと思いもしない
小鳥
樹々の間で歌い枝から屋根へ
小さな早鐘の心臓
掌におさまる温もり幼子の願い
(2025年3月12日)