肋骨のうた−Музыка на рёбрах
佐々宝砂

私の肋骨は歌わない
田舎の整形外科の
ものさびしいレントゲン室で
私の第8肋骨はぽっきり折れた姿を晒す
でも私の肋骨は歌わない

だってここは21世紀の日本だから
20世紀半ばのソビエト連邦じゃないから

そのむかしソビエトでは
いろんな音楽が禁じられてたから
自主出版とか自主製作レコードとかあったんだって
牧歌的な話じゃないよ
見つかったら逮捕されてシベリア行だよ
自主製作レコードはレントゲン写真を再利用したから
通称肋骨とか肋骨音楽とか骨のジャズとか呼ばれたんだ

という話を私は四半世紀前のテレビ番組で見たのだった
それほどまでに音楽を聴きたかったのか
それほどまでに聴きたかった音楽はなんだったのか

プレスリーとかかなあ
サミー・デイビス・ジュニアとか
グレン・ミラー・オーケストラとか
ビーチ・ボーイズあったかなあなどと思って調べたら
淡谷のり子まで肋骨レコード化されていたとか

私の肋骨はモニターに映し出されて
見事にぽっきり折れているけど歌わない
痛みで存在を主張するけど静かだ
歌わない私の肋骨よ
おまえがもしも肋骨レコードになるなら
何を歌いたいかい?


自由詩 肋骨のうた−Музыка на рёбрах Copyright 佐々宝砂 2025-03-12 15:46:24
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