石ころ
あまね

石ころになりたかったんです
道のはしっこで
誰の目にもとまらないように
ときどき蹴飛ばされても
誰のことも恨まないような
ちいさな石ころになりたかったんです

たいせつな物は思い出の中には何もなくて
空っぽの心は
いつも何かが妬ましくて
焦がれる感情を押し殺しては
何も感じないふり 考えてないそぶり
どこにも手は届かないんです

ちいさな陽だまりがありました
十月のささやかな午後みたいな
もうすぐ死ぬ虫たちが集まって
まどろみの途中で そのまま終われたら
いいね なんて
さみしくないよ なんて
言い交わしている

ずっと夢の中です
生まれてからずっと
覚めない夢の中です
熱病にうなされるみたいに
ちいさな細胞たちが集まり
大きくなりたかったのに
ちいさいままでいるのは
大きな波の中で泳いでいるみたい

未遂のままがいいんです
何を為すこともなく
ただ道端のちいさな石ころとして
いつか誰にも蹴飛ばされなくなって
静かな風景の一部として
うずもれていけたらいいんです

死んだ小鳥を埋めたあとに
墓標として置いてもらえるような
そんな石ころになりたかったんです


自由詩 石ころ Copyright あまね 2025-02-05 15:22:51
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