秘密の宝石箱は
佐々宝砂

秘密の宝石箱はもうすっかりぶちまけてしまった

どうせみんなまがいもので
いちばん高級なやつでも貝パールに過ぎなくて
いちばん安っぽいやつはきらきらするキャンディの包み紙で
そもそも宝石箱自体が風化しはじめたプラスティックで
パンドラの箱じゃあないものだから
奥に希望が隠れているということもない

要するにもうなんにもなしで
こっちの手の内はもうなにもかもお見せした
私はからっぽになった


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


逆接の接続詞がぶんぶん辺りをとびまわるのはなぜだ
触ると崩れるプラスティックの宝石箱に
まだなにか入っているような気がしてならないのはなぜだ
どうせなにが残っているとしたってまがいもので
思いこみの欺瞞の産物には違いない


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


ああまだしつこく逆接の接続詞がぶんぶん辺りをとびまわる
これ以上告げることはもうこれっぽっちだってありゃしない
だのに告げそこねたような気がしてたまらないのはなぜだ
どうせ告げそこねた気がする言葉なんてありきたりで
クソみたいにつまらないに決まっている


 はず だが

  なの だけれど

   だが しかし でも けど 


それでももしも
そんなことはほとんど可能性ゼロだと思うのだけれど
ゼロじゃないとしても
木星に生命が存在する確率と同じくらいの確率だと思うのだけれど
それでももしもその
クソみたいにつまらないありきたりの言葉を
投げ出してもよいとあなたが許してくれるなら
ほとんど死んでもいいような気がする










自由詩 秘密の宝石箱は Copyright 佐々宝砂 2003-12-01 05:22:17
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