ユートピア万歳!
鏡文志
誰一人、針を止める者はいなかった
時間だけが、過ぎていった
誰一人、悪いことをする者はいなかった
誰一人、互いを憎む者もいなかった
誰一人、疑問に思う者はなかった
時間だけが、過ぎていった
何一つ、憎む必要がなかった
何一つ、愛す必要もなかった
何一つ、取り繕う必要もなかった
彼らは、全てが完璧だったから
一台、一台とショートしていった
二台、三台とショートしていった
皆、涙を流し、悲観する様子を見せた
でも、一体何が悲しいのか?そのことを確認する者は、いなかった
涙を逃せば、それで良かった 悲観する様子を見せれば、それで良かった
だから、そのことを確認する必要も、何もなかった
そして、最後の一台が最後から二代目の機械がショートしようとする時、最後の一台はいつものように涙を流し
「ユートピア万歳!」と呻き声を上げた
それが人間が機械に託した、唯一のメッセージだった
最後の一台がショートしたことを知る者は誰もいない
証人もいなく、確認も、記録も、報告さえ、なかった
時間だけは、誰も止められなかった 空間だけは、誰も埋められなかった
只、全てが過ぎ去っていった
私達がもう、それを確認できない以上 そのことを悲観する必要も、何もなかった