北窓
リリー
古い白い花の蔭に
恋の嘆きをみていたむかし
チョコレートの銀紙を
折り畳みながら過ごした夜
なつかしい想い出は
楽しく稚い愛の物語
その震えも忘れてはいないけれど
私の唇にその旋律が音となって
溢れてくることはない
藻の生えこびた沼底に入りこみ
そこに美しい色を見つけた時
泥沼の水滴になろうと
希望も理想も脱ぎすてた
うらがなしい晩秋の夜の広ごりに
大きく息をつき
鏡の中の私へ手を伸べてみる
何か ぼやけているようだけど
のどかな目もとで髪をとかす私に
北窓から、ビル風がともし火のような
歌になってきこえてくる