北窓
リリー


 古い白い花の蔭に
 恋の嘆きをみていたむかし
 チョコレートの銀紙を
 折り畳みながら過ごした夜

 なつかしい想い出は
 楽しく稚い愛の物語
 その震えも忘れてはいないけれど
 私の唇にその旋律が音となって
 溢れてくることはない

 藻の生えこびた沼底に入りこみ
 そこに美しい色を見つけた時
 泥沼の水滴になろうと
 希望も理想も脱ぎすてた

 うらがなしい晩秋の夜の広ごりに
 大きく息をつき
 鏡の中の私へ手を伸べてみる
 何か ぼやけているようだけど
 のどかな目もとで髪をとかす私に
 北窓から、ビル風がともし火のような
 歌になってきこえてくる

 


自由詩 北窓 Copyright リリー 2024-11-23 12:02:18
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