アメリカ
藤原絵理子
大好きだったシンガーが死んだ
ピッツバーグからグレイハウンドに乗って
何かを探しに行った時代は
まだ探すべきものがどこかにあった
今はもう
クリック一つで何でも見つかると
真実かどうかなんて関係なく
探しに行く必要なんてないと勘違いしている
ターンテーブルが回っている
レコードの溝に潜んだ歌を
古き良き時代の真空管が拾い上げて
サウンドが満ちる店の片隅で
移民の彼女は請求書に埋もれている
毛嫌いされているのはわかっているけど
日々の暮らしが良くなるのが先決だ
違う候補者を支持する人々が
食事を共にして祈る
どっちに転んだって
自分たちには祖国があると信じるために
醜い悪口の言い合いにうんざりして
若者たちの寄るところは
醜い言葉の溢れかえる電脳空間だけ
ハンバーガー1個が6ドル
ピザ1枚が30ドル
街で普通の暮らしをして月に5000ドル
関税上げて石油を掘りまくったところで
物価は下がったりなんかしない
億万長者どもが喜ぶだけのこと
そいつらが何か施しでもしてくれると思っているのか?
もう民主主義を喧伝するために
税金を使われるのは嫌になってしまった
結局勝ったのは
あのじいさんだった
モスクワの友人は喜んでいる
不純物の多い鉄は
あっという間に錆びるものだ