虚を磨く
菊西 夕座
うちらのいのちはこんもりとしげった森ではありません
そこのわれてるひと匙にすくわれこぼれる朝露です
かの俳優はめをとじて出ばんがくるまでうごきません
さんりく産の朝採りがとかいの露店にならぶまで
ひたすら独りでめをとじてうつろの玉をみがくのです
ぶたいのはしのくらがりでいきをひそめて矯めるのです
まるで矢をいるつわものがつるを必死とはるように
ぜんしんぜんれい集中しますみの刀になるのです
ようやく出ばんをつげられて鞘からおのれをぬくときは
ひきしぼったる矢のつるをいのちとかえてときはなち
虚構のせかいにあなあけてうちらはまことにいたるのです
まことはすなわち虚構のもりにむしかごかかえる営みです
まことはこんもりしげったそのおくに鳥をかくしてうたわせます
その鳥こそがうちらのいのちをついばんでうみのなかへとかえします
さんりく沖のつりびとは針のさきまでいしきをとおし
うちらのくわえるひと匙にこくうをあけて陽をさします
そこからめばえてくる茸(タケ)をきょうもとかいへおくります
うちらのいのちはこんもりとしげった森ではありません
そこのわれてるひと匙にすくわれこぼれる朝露です
かの俳優はめをとじて出ばんがくるまではたらきます