ワニのひっくりかえった庭 ~きょうも仕事づくえに牙たてて~
菊西 夕座

ワニのひっくりかえった庭 ~きょうも仕事づくえに牙たてて~

   ――ではみなさん、
     喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
     テンポ正しく、握手をしましょう。
                       中原中也『春日狂想』


ワニのひっくりかえった庭でわたしたちが交わした握手というものは
そりゃもうワニの顎のようなつよさでがっちりくみあったものだから
どうやったって分つことができないほどにかたく理想がけつごうした
そこでわたしたちは腹ばいワニの庭でゲップがでるまでみとめあった

ところがいっこうにうごかない膠着じょうたいの手と手のなかの庭は
しだいにつのるくうふくをみたすために種をうえ手指状に芽ぶいたが
よくみるとそれはとがった五ほんの牙であちこちに花さいて共食いし
がっちりくみあったかとおもうとそこら中でアクシュができあがった

アクシュばらはどちらの手が上顎に相当する位置をしめるか競いあい
あちこちでワニのデスロールをはじめて狂おしく凶暴にあばれ回った
わたしたちもはげしい回転にまきこまれ腹ばいから仰むけを輪廻した

むげんにつづくかとおもわれたおそろしい回転がやんでも頭はまわり
ひっくりかえったワニが庭にもどってようやくアクシュがとかれると
ずたずたにひきさかれた幻想からわたしたちは各自をひろいあつめた


   ――ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に――
     テンポ正しく、握手をしましょう。
                        中原中也『春日狂想』








自由詩 ワニのひっくりかえった庭 ~きょうも仕事づくえに牙たてて~ Copyright 菊西 夕座 2024-10-27 17:32:35
notebook Home