満月
室町 礼

人生論のような
玉がひとつ
銅が腐食したような色の空に浮かんでいる
わたしが
満月を永くみていられないのは
たぶんそこに
欠落がないからだという
不幸な気持ちを
葡萄樽のような身体に浸して
いるからだ
わたしはひょっとすると
人間でないかもしれない
失恋をしたことがない
貧困を経験したことがない
孤独になったことすら一度もない
狂気に陥ったこともない
なぜなら
これすべて
わが真円のなせるわざなのだ
欠落のなかに
愛や
富や
生があるという人生論をもつ
わたしは
他人が語る不幸がうらやましい
失恋や
孤独や
不遇や
病いといった欠落は
わたしにとってはまさに
真円の根拠なのだ
だからわたしは
満月を怖れて
秋月から目をそらす



自由詩 満月 Copyright 室町 礼 2024-10-26 17:59:14
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