反故の里帰り
46U

気づけば部屋のすみに重なっていく紙のくさぐさ
服用薬品名カード、やら
保険調剤明細書、やら
ほおっておけば粉雪のような埃をかぶって
畳にみじめに融けていきそうな顔をする

教科書サイズのおまえさま方を
拾う 集める とんとんと揃えて
ふたつに折り 中綴じホチキスで留めてみた
はがき大の冊子の出来上がり
真新しく手の上でかがやいている

素の面ははんぶんだけれども
これは立派なスケッチブックだ
濡れても 汚れても 惜しくない
だからこそ どこにでも どこまでも連れて行ける
しごく立派な相棒だ

反故ほごでつくった帳面を
わたしはどこにでも持って行く
待合所と呼ばれるところには
およそどこでも連れて行く
役所 駅 それから病院

薬待ちの ある夕方
デッサン用の黄色いボールペンを走らせながら
そのページが調剤薬局のものだと気づいた
(おまえさま、里帰りね)
ささやくと なにかがペン先を逸れさせた
わたしの意図しない地点をボールペンがすべる
天のいたずらが描いてみせたのは絶妙なライン  

反故の身ではめったにできぬ里帰り、と
詩藻めいたものがまたたいた
故郷はうれしいか、と訊いてみる
一瞬の沈黙
インクはにじんで見えなくなった
ゆめかうつつか 帳面もこの眼もたぎっていた


自由詩 反故の里帰り Copyright 46U 2024-09-30 20:34:51
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