無題
湯 煙



日に三度の飯と食後の薬のいろいろにその他
天を仰ぎ開閉されていく一体のコンパスの  
断面に寒色を施す小便痣をぢるぢるとさせては
今日もまたヘルパーたちの手を焼いている

廊下の隅ではいつも仲間と世間話に興じる
時は過ぎていくがけしてかまわないでほしい
因果応報というものすべては齢百二十の戯れ言
誰を恨もう三世のめぐり羨もうと時代は時代

みしみしするばかりの番に依る革鞄の厚み暗さ
鳥打ち帽とともに仕立てを直し雨風を引き連れ
輪舞するはなびらをくわえてふるさとを悟ろう
わすれていたのかすてていたのかおとおとたち

魚を漕ぐ櫂を游ぐ者がやってくると聞いた
まぶしい朝のように向かい合い優雅に語り合う
グラスの氷を傾けるならば華が咲くのだろう
砕け散るだろうきっと枯れるだろうかさっと

(チンパンジーするシンパシーのいよいよ
昨日やってくると届いたテレパシーで知った)

ヘルパーたちは真新しいパンパースを広げる
夜行列車が走り出して僅かに震える車窓
ようやく人の形を小さく残す停車場がある
通過する無に紛れていく千の羽ばたきと灰の陽





自由詩 無題 Copyright  湯 煙 2024-09-16 23:46:57
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