想い出
レタス
あれは小学2年の夏休みのことだった
隣の家の姉さまは
白地に花菖蒲の浴衣を纏って
細い躰を座敷に横たえ
静かに扇風機のぬるい風にあたっていた
ぼくは庭にあったシーソーに乗りたくて
姉さまの名前を呼んでみた
イサちゃん どうしたの…
あのね シーソーに乗りたいんだ
姉さまは気だるそうにその躰を起こし
長い黒髪を整えると
透明なコップで薬を飲み
ちょっと待っててね と言った
ふぅ… 軽い吐息をつき
姉さまはゆらゆらと立ち上がり
縁側に揃えられた紅い鼻緒の下駄を履いた
だいじょうぶ?
大丈夫よ…
姉さまは軽く微笑んだ
その顔はほの白く
薄い唇だけが桃色だった
ギッタンバッコン ギッタンバッコン
合いの手を入れた
姉さまの躰はとても軽かった
やがて姉さまのお母さまがやって来て
少し休みなさいとカルピスをお盆に携え
イサちゃんはいつも元気だねぇ… と微笑んだ
さっ… お飲みなさい
縁側に 二人腰かけ
ストローで氷をカラカラかき混ぜ
クピクピと白い液体を吸い込んだ
ツクツクボウシが鳴いていた
姉さまは夏の終わりに入院し
冬の晴れた午後
白い衣を着せられて帰って来た
ぼくの母さんは涙を溜めて
血の病気で逝ってしまったんだ と言った