どこにもない海
田井英祐
最果てで生きて眠りついた
夜の端に落ちていく顔を
泥沼暴風雨が幾重にもなり
閃光と同じ重い速度で
駆け抜けるように
殴りつけていき
顔は最果てに沈み腐る
数多の赤い蟹が肉体を
啄んで残った緑の輪廻群が
泥土の上に浮かび上がり
次々蠕動し絶叫すると
どこでもない場所から
唖のように黙った羊水が
最果てに流れ込んでいき
土を孕ませていく
羊水に浸された輪廻が
幾億回も交叉して
君を
創りだしていくので
君が誕生する前に
夜の端の水門を開けて
羊水の底に沈んでいる君が
浮かびあがってくるのを待つ
最上のグッドモーニングを
花束にして贈るために
どこにもない海の夜の終わりを
告げるために
朝焼けを引っ張ってきて
僕らがまた朝を始められるように。