ミニヨンならざる者の歌
佐々宝砂

ええ レモンの花は咲きません
ええ こがねの柑子も実りはしないのです

くらい森に目立つのは
変にほうけたタケニグサ
それからキノコ
ススキの穂

でもあのはるかかなた森の奥
湖があるのです
深い藍色の水に
さまざまな生き物を住まわせた
冷たくて重い湖が



ええ 誰もあなたをなぐさめません
ええ 誰もあなたに微笑みかけはしないのです

夜が更けてゆきあなたは孤独に
頼りなく電柱に寄りかかります
そこからこの森まで
わずかに半歩
その半歩をあなたは踏み出しません

でも聞こえるでしょうその道のかなたから
鳥のはばたきが木々のざわめきが
ひくく遠吠えするあれは犬なのか狼なのか
それとももしかしたら猿かもしれません
あなたのようにおどけた表情の



あなたに見せたいのは
けれど生き物たちではありません

その道のかなた静寂ならざる森の
はるか奥にある清澄ならざる湖に
遠い星の影がうつるのです
だからといって

かの星影を知るやかなたへ君と共にゆかまし と

ミニヨンならざる者が歌ったら
あなたは顔をしかめるでしょうか




「ミニヨンの歌」(ゲーテ作 新声社訳)に寄せて



自由詩 ミニヨンならざる者の歌 Copyright 佐々宝砂 2005-05-21 01:47:48
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