五感
夏井椋也
耳の不自由な彼は
音が見えた
と 言った
わたしには聞こえただけだった
目の不自由な彼女は
色が薫った
と 言った
わたしには見えただけだった
後ろめたくなかった
ことなんてない
おまえはどんな嘘をついてきた
面白いなんて
慰めを言うなよ
持てる者の嫌な臭いがするだけ
なけなしの語彙を
引っ掻き回しながら
五感と渡り合う
なんて みっともない
言葉
五感
邪魔なのはどっちだ
それでも書かずにいられない
病
自由詩
五感
Copyright
夏井椋也
2024-07-08 18:43:12