遍在した
由比良 倖

風が私をかき消せばいい、コンピューター風は青い慰めに似ていて、
部屋の中、私の嗚咽はプラスチックを吐き出す、欲求不満には、
死をぶつければいいです。

ほら何も生み出せない私の頭の中には、
日本語が子葉を、でもそれよりもずっと深い根毛を、
ほら何も生み出せない私の頭の中には、私よりもずっとずっと深い海底が、
そこには白い花、それさえ見せられたらな、私はあなたよりもずっと暗闇に似た何か、
風、乾いた偏光風を示せるのに、赤いプラスチックに似た根っこには、
私とあなたとのプラグ、それは金のコネクターだから、経年変化はない、
チープで、私とあなたには永遠の微笑みが似合っているね。

ねえ、タールに染まった壁紙を剥ぎ取ったら私の中の縺れ合った、赤色の声がこの世界を浸食していくかな、それはとても儚い反響で構わない、私の(泳ぎ)に空間はいらない、ただ、繋がっていく中で、私が不在していく中で、彼とあなたと彼らと、色のない生物たちの間で、私は彼らに気付かれぬ程度に笑いたい、彼らに気付かれぬ間に、私は遍在したい。

どこからともなく量産されたハローが、遍在することによって、小さくなっていくのを悲しめない無感情ばかりだから、増長した誇大妄想の沈黙が欲しいよ、共に秘かな、冷たい触れ合いを小さなベッドの中で出来ますか、それはいつの時代ですか、昔からめんめん受け継がれた来た、皮膚感覚のために、私は濫費される言葉のために、表皮が剥がれて行く、私にはベッドに横たえる身体がないから、限りなく私がここにいない私の理由をあなたは重症扱いしてくれますか?

重い沈黙のギプスを全身に優しく纏わせて、あなたのベッドの上で私はサナギになりたい、羽化したい、羽化したい、羽化したい、
それは、ずっと、ずっと後の話です、私に重い時間を、沈黙をください、
文字盤の鳴る、古い時計を傍らに置けば、私は目を瞑れるかも知れません、
そしたら頭の中の海では、懐かしい白い花が、暗い波に揺れるので、私は幼年時代以来の寝返りをうてるのかも知れません。
あなたは、その間……、
沈黙をよろしくお願いします、私から放たれる日本語を、放してやって下さい、
目を瞑ると、あなたの上には拡がる、宇宙の塵を、集めててください……。


自由詩 遍在した Copyright 由比良 倖 2024-07-07 01:27:03
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