パセリ
リリー

 かつてお酒の好きな詩人が
 青い背広を着て旅に出ようと言った
 夏の来るのを待つ短い ひと時
 休日の真昼間
 私の心はスーツケース持たず旅に出る

 海もあった
 太平洋の波の音に吹き消されそうな
 か弱い私の心を見つけた所もあった
 山もあった
 深い木立の中を歩いて
 孤りいることが
 苦悩を高め
 やがてそれを浄化するのだと知った

 幼い生命が我身から生まれた時
 心から彼を愛したと私に告げた友人に
 過去の 横切っていった愛のかけらはなかった
 幸せなのだ
 ああ、本当に幸せなのだ

 夏の来るのを待つ短い ひと時
 薄雲の重なり始めた真昼間
 干してあるシーツと掛け布団カバーは
 夕刻までに乾くだろう
 ベランダでしゃがみこみ
 プランターのパセリを摘む

 この匂い立つ柔らかなパセリが、
 目の前で どんどん巨きくなって
 心は遥か遠い 緑の森陰を彷徨ってしまう
 今晩 
 白ワインで白身魚のムニエルに添えたいのだけれど


 


自由詩 パセリ Copyright リリー 2024-06-08 08:11:38
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