夏井椋也


マンションの壁面に宿った
真冬の枯木立あるいは
悩める左脳の血管造影画像

執拗な風雨に晒されても
コンクリートの平面に
蔦は日々を描き続ける

人の暮らしが届かない背中で
意識と無意識の非武装地帯で
蔦はひたすら企み続ける

人は時間を掻い摘んでしまうから
蔦の切実な一分一秒には
残念ながら気づきようもない

ようやく人が気づく頃には
蔦は人の緻密と努力の外面に
見事なアートを創り上げようとしている

まったく
素敵すぎる人の敗北だ




自由詩Copyright 夏井椋也 2024-06-02 10:59:03
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