あの虫がいるのは窓ガラスの内側か外側か
ただのみきや

地の悲しみの澱を素足で吸い上げて
嘔吐する
花びらの金魚
収めきれず
破裂するまなざしの気配

その歌が流れると
わたしの中に風が吹き草木を揺らした
ことばは糸でつないだ骨片や貝殻のよう
最も深い層でしかつながらない
木乃伊に懸想するように

蒼白な雲が息をふさぐ
孤独な星に降ってきた一枚の翼
起こるべくして起こることに
犬たちは連鎖して一斉に吠えたてた

出て行くためには
自分の真中の針穴をくぐりぬけるからだが必要だ
いくつもの物語の破片が散乱した場所で
万華鏡の中に閉じ込めた蝶を覗く太陽

きみもまた焼け焦げた目をし
雨音のスケッチの中に佇む
卒塔婆のような一行ではなかったか

愛を溶かして跡形もなく
返済できずに利子が膨らんだ
こころとは裏腹に
流す血は赤く濃く思いのほか熱いのに

メガネの縁に下着姿のきみが引っかかったまま
枯れた藤のように重さのない幻とは裏腹に
二人分の苦いはらわたを抱えた一匹の鱒は
実体はあってもことばに変換できない恐怖に寄生され
食まれながら釣り上げられるのを待っている

飛ばされる帽子の夢
それとも帽子が見る夢か
しゃぶる口としゃぶられる指
わたしという快楽の回路


                     (2024年5月26日)











自由詩 あの虫がいるのは窓ガラスの内側か外側か Copyright ただのみきや 2024-05-26 14:07:28
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