過疎
藤原絵理子


タクシーの車両は古いものばかりだ
バンパーには傷
ボディの塗装はくすんでいる
乗客はたいてい老人だし
運転手だって負けないくらいの老人だ
買い物する間駐車場で待っている


一人暮らしのおばあちゃんは
週一回の買い物を楽しみにしている
そこそこの資産家なので
押し買いの兄ちゃんが訪れるのも
それはそれで楽しみだ
娘が帰ってくるたびに検分する
指輪やネックレスが減っていく
預金通帳の数字が小さくなっていく


若いころに見た夢は
どこへ帰っていったのか
高原の白樺が好きだった
こんな未来を夢見てはいなかったはずだ
もう 家の中に侵入してくる
百足にしか興味がない
犬走には薄茶色のピレスロイド誘導体粉末
それで防げると思っている
信じる者は救われるものだ


10年後にはやって来る
地震学者のわかりにくい学説を
うまく曲解して話を作る
バス便はたいそう減便されて
当然運賃が高騰する
高校生たちは
雨の日も風の日も自転車を走らせる


自由詩 過疎 Copyright 藤原絵理子 2024-04-27 22:11:36
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