月光町一番地
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冷たい 風の 吹く夜が 毎日 続きました
冷たいのは 月も 花も 人も 光もでした
おまけに夜は 同じように 繰り返しました

その頃 その夜に 見かけられたものでは
私の心が 一番 冷たいものでした
怖くも 悲しくも 悔しくも 寂しくも ない

木漏れ日が 影を殺し 心を壊す 花が咲き
干からびた 虫の殻が かさかさと 転げ
働き手が 夕餉を抱え 猫背で 逃げていく

自分の他に 頼れる人が いるから休めるのです
思い出のひとつひとつが 凍って もう溶けない
冬すら消え失せた 世界で 私は生まれました

私は あなたを 思い出すことも 忘れました
忘れられたいと 切に 願いながら 私を産んだ人の元へ帰る
彼女たちの手も また 寒さで凍え切って もう 痛いぐらいなので

世界は 美しいところだな と 常々 私は思いました
身を切るような冷たさで そこら中に 覚えのない傷ができて
眩しさと 年中差す影との 明暗差で 光は濁っていきます

冷たい 夜です 寒さは 救いです
長く 生きられないであろうことは 喜びで
静けさは 下らない嘘による疼痛を 慰める

星って どうして 燃えるんですか
地球も どうして 燃え尽きないんですか
太陽が生まれる前を 地球は きっと忘れられないのに

あなたに 朝の話を したい
スープが温まり 冷めるまでの 短い時間
眩しくて 明るい テーブルで 愛する物を囲んで 食事がしたい

でも 夜は 今も 続いています
優しく 頬を撫でているのは よく知っている匂い
私が生まれた 冷たい夜の 風です

待っているのは 私が稼いでくるはした金
待っているのは 羞恥心
待っているのは 殴ると気持ちが晴れるから

居並ぶ 電灯の下を 一人で 歩いているのです
清潔で 美しい 皆が眠っている 月光の町 で
それでも 彼らが待っていると 信じている私は

この街の誰よりも あなたに会いたがっていた
多分 その想いだけで 誰よりも 美しかった
思い描いたこともない 小さな 希望のお陰で


自由詩 月光町一番地 Copyright 303.com 2024-04-27 14:21:33
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