部屋は墓場へ戻す。焚火は近く終わる。
竜門勇気


焚火の終わりを待っている
燃えるものがもうなくなってきた
ここにあった暖かな体温
ぼくが愛した柔らかな太陽
そうつぶやいて時間をつぶす
あいまいな未来を想像する

終わりが近づきながら叫んでる
ひと月前まではまだ
それが嘘だって自分をだませるくらい
遠くに聞こえていた
今は眠るときも眠らない時も
眼も見えないぐらいに濃い霧のなか
近くで聞こえるよ

ここにある暖かな毛玉
ぼくが愛する柔らかな日向
札束も、家も、服も、燃えるから
焚火にくべた
暖かさが少しでも長く続くように

何をくべても火は小さくなっていく
かすかな炎の中、札束も、家も、服もそのままで
ここにある暖かな毛玉
ぼくの愛する柔らかな日向のなかで
小さく冷たくなっていく
揺れる光の中の役立たずの供物が
みすぼらしく、無意味で
なんなら忌まわしくて
凍えるような吐き気がする

街の中の明かりの
一つ一つが不愉快で
うつむいて歩くとき
吐く息とつま先が
やけにはっきりと見える

穏やかな静止と
消耗の交差が
共鳴している
遠くの
幹線道路のロード・ノイズ

吐く息、吸う息
つま先、ノイズ
冷えいく石、最後の熱

この部屋の中で
膝の上で寝息をたてるきみが
いなくなったら
この部屋は墓場に戻す
生きたものはもういない
ここをぼくときみの墓場へ戻す




自由詩 部屋は墓場へ戻す。焚火は近く終わる。 Copyright 竜門勇気 2024-04-21 23:58:50
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