桜散る中で
積 緋露雪00

桜の花びらがはらはらと散るやうに
今日も命尽きた人人が五万とゐる。
それは至極自然な事で、
春の、或るひは生の宴の後の寂しさは
一陣の風と共に桜の散った花びらが渦巻く底へと沈み込む。
さうして地面の黒子が花びらの安楽の地となる。
はらはらさらさらと散った花びらは
そのこと自体に何やら大きな意味があるかのやうに
春の景色を陰鬱に一変させ、
今は亡き人たちの面影を甦らせる。
それに出くはす私は
きっと顔面蒼白で
自分が幽霊に変化したかのやうにして
それらの面影と抱き合ふ。
桜が散る中では生と死の境は消え失せ
禁忌を犯すに相応しい場へと浄化する。
中原中也が「サーカス」で空中ブランコを
――ゆあーん、ゆあゆあーん。
と表現したやうに
桜舞ひ散る其処は
人智を超えたゆあーんの往還が為されてゐて
生は死を、死は生を往還してゐるのだ。
さうでなければ、
舞ひ散る桜の美しさはこの世にあってはならぬ代物で、
桜が散りゆく滅びの美ほど切ない美しさは今生のものに思へぬ。
つまり、桜散るとは結界が破れて死が噴出する場なのだ。

ゆあーん、ゆあゆあーん。


自由詩 桜散る中で Copyright 積 緋露雪00 2024-04-18 22:24:11
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