しぼ虫
菊西 夕座

しぼ虫はしぼんでしぼんでしぼみつくして
しょんぼり虫とであえたころには四月の宵
単四電池にまきついてだきついてころがり
ベッドの下にまで旅にでたらわすれられて
からっぽのリモコンの席にほこりがたまり
いつまでも電気はつかずに春が老いました
春の老成にえきもれた夏のつばさはやせて
ひからびたセロハンみたく筒状にくるまり
単四電池をつめこんでも羽ばたかないまま
しぼ虫のせなかで秋風をふかす小砲となり
やがては種のつきた冬の空砲とむすびつき
しょんぼり虫としぼ虫は忘却をうみおとし
おもいだす日をはげみにみなしごをそだて
しらない人たちに挨拶するゆかいさを餌に
しぼみきった世界のそらをうすくのばして
サランラップより光るソランラップをあみ
おいそれとは生きもせず死にもしないまま
木々のはだぎをまとわせる粗家をあいして
めぐる季節に木々がみどりに色づいたなら
つやめく繁みにいだかれた粗家をめでては
しぼみにしぼんでいったきおくの棺をあけ
夜よりも宇宙よりもくらい席にこしかけて
リモコンをくどうさせながら地下にもぐり
電池のまきものをひもといてねつをにがし
ひえてしまった地底にみなしごを旅ゆかせ
みずからはひとのはなの穴へとしのびいり
しぼ虫が片穴をながくしぼませるときには
しょんぼり虫がもう片穴をさらにしぼませ
そうやってたがいにたがいをはげましあい
ひとがぜつぼうしない呼吸法を敷かせます
医者がふちどる病の輪郭からはな汁はもれ
学者がかたどる知性の磁極を砂鉄がおおう


自由詩 しぼ虫 Copyright 菊西 夕座 2024-04-06 22:33:47
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