文豪の面影
藤原絵理子
「自分を信じなさい」
そう言った詩人は
認知症になって
譫妄の森の小径の彼方に光を見て
まだあどけなさを顎に残した少女に恋をした
グループホームなどなかった時代
煙突の底から見上げる
丸い青空に両手を拡げて
少年になれたストーカー
若者ことばが不気味な老人
洗いざらしのジーンズと
真っ白なシャツに醤油のしみが痛い
エベレストにはゴミと糞便
ストーカーとミサイルなら
どちらも怖い
ストーカーと爆弾ドローンなら
こっそりした分ドローンかな
クローズアップは悲劇でも
ロングショットなら喜劇
ほんとうのことには
笑うしかない