小さなさかなの物語
そらの珊瑚

手のひらに載せたガラス瓶の中は不可思議な水で満たされていて
米粒ほどの数匹のさかなが泳ぐ
ここで生まれてここで死んでいく
生殖も食事も排泄も
すべてのことがその水を介して完璧にめぐっていくのだという
過去も未来もここにあって
透明に見えるけれどほんとうの透明ではなく
わたしにはそれらが見えないだけ
ほとんどぴたりと閉じられた蓋をそら、と呼ぼうか

春の窓辺にそのものを置く
柔らかい光が
色を持たないさかなの内臓を透けさせるから
わたしの胃はきゅっと共鳴する
生きていることは精巧にできていて美しい
こころは見えないけれど
きっとそれも継がれていくのだろう

百年後
相変わらず柔らかい光
彼らの水は蒸発して半分くらいになっている
空、につもった埃を息をふきかけて飛ばし
海、と呼ぶには小さすぎるねとだれかがが微笑む


自由詩 小さなさかなの物語 Copyright そらの珊瑚 2024-03-24 11:07:37
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