紅白もくれん
そらの珊瑚

長い通院生活も今日で終わる
とある春だった
通い慣れた道、河川工事はまだまだ続くらしい
詳しくは知らないけれど新しい駅が出来るという
パン屋、スーパー、マンションや公園、行き交う人々
駅を支点として新しい街が作られるにぎやかな未来を少し想像してみたりした
そんな街に以前住んでいたことも思い出した
時系列が時に混線し、未来の中に思い出が現れることがある
信号にさしかかる
ハンドルを右に切ると湖があり、湖畔に紅白もくれんの大木が今年もたくさんの花を咲かせていた
あたりまえのようだけれど、冬はちゃんと終わるし、春もちゃんとやってくる
肉厚そうな花弁は存在感に満ち、今にも飛び立ちそうな小鳥のようだった
けれどそれが羽ばたくことはなく、ちらほらと地に墜落してもいる
生と死もちゃんとある、あたりまえのようだけれど
いつもは窓からちらっと見るだけだったが、ふと間近で見てみたくなり
車を端に寄せてもくれんに近寄って見た
すると一本の樹だと思っていたのはわたしの長年の思い込みで
それはぴったりと寄り添っている紅もくれんと白もくれんの二本の樹であることを知った
ふたつの樹の枝は、上手に空を分け合い手を繋ぐように紅白の花を咲かせている
光の射さない地下では、毛細血管のように根っこが伸びていることだろう
もしかしたらもうもくれん自身でもどっちの根っこかわからないほどに
それらは絡み合い
命を支えあっていることだろう、この春もきっと



自由詩 紅白もくれん Copyright そらの珊瑚 2024-03-19 12:24:52
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