surely
中田満帆


 だれのものでもない両手で
 だれかを傷つける
 呼び鈴がおれの耳に
 爆発している
 やり過ごすことのできない咎に身をふるわせて
 やはりだれも
 おれを諒解しないというところで
 合点する
 他人の顔に鉈を下ろして、
 それでもだれに気づかれないままで終わる
 きょうことはぜんぶ忘れる、だれかがいったように忘れる
 それでも、おれはおれを赦せないでいるんだ
 ラジオがいうんだ、──あの世は天国だって、
 おれはおもうんだ、
 それを地獄の住人たちに伝えてやれよって
 雨のなかで待たされている多くのひとたちに伝えてやれるんだって 
 それがお好みの事実ならねってさ
 でもおれもまた通り過ぎるんだ、退場役のエキストラのひとりだってことに気づく
 そして多くの物語が中断された路地をあたりまえのように去ってしまうんだ

 だれのものでもない両足でおれを傷つける
 自分自身を獲られない躰でもって、
 あしたが祝祭であるかのようにふるまいつづける
 人形の家に灯りが点りはじめた
 むかいの養老院で人生を終える老人たちの幸福さに焦らされ、
 じぶんの顔を忘れてしまった一瞬を
 スクリーンに投影しつづける
 きのうことはぜんぶ憶えている
 きみに話したように憶えている
 それでもきみはきみを守り通しているんだ
 かの女がいうんだ、──光りが嵐を超えてやって来るって
 おれはおもうんだ、それを春を待てないひとびとに教えてやれって
 闇のなかで待ちくたびれているひとびとに教えてやるんだって
 それがお好みの真実ならねってさ
 きっとだれもが足搔いて来た、過去と現実の磁場のなかで
 じぶんの行いすら忘れたやつらに罰をってな 
 きっとだれもが足搔いて来た、過去と現実の磁場のなかで
 じぶんの言葉すら忘れたやつらに罰をってな 
 それが当然のことなんだ、きっと
 やつらが存在している事実の胸糞で、おれはいつも嘔きそうになって、
 スタックしたトラックが停まる道のむこう側で絶えず見張っている警官たちの家庭を
 不道徳に充ちた笑みでもって、やさしく葬ってしまいたくなるんだってつぶやくのさ
 やつらの存在している事実がまるでうそっぱちだったってことにしたいくらいにね、きっと。


自由詩 surely Copyright 中田満帆 2024-03-18 13:33:14
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