その優しさの名前は夜
黒ヱ


対の果ては見えない それでも立ち尽くしているのは
相を浮かべては思い焦がれて 待ちわびていて
飛び去る轍は偏東風(やませ) もう寒さがそこにいるから

だから
「ほら稲穂がこんなにも靡いて」
綺麗な声色は色褪せずに

絶えず揺れているのは 物悲しさを忘れるためだろうか
さざ波の水面には触れないように それでも手は伸ばして
動いているもの また止まっているもの
それは複数とひとつしか いないように思えた

あおみ 伸びる緑の線に願いの所縁を聞いて
携えている重きを 何処に無くしてしまったのか
あなたに あなたに 聞きたくて
甘さを抱いて 空を噛み締めた 隙間から漏れる声
「会いたい」 その一言を


喧騒揺らいだ 通り抜けた 泳ぎぬいた日々
今だからと 未だの想いを話して 果たして誰に
彼方に行ってしまった 廃れ切ったものたち

聞いて
「また何度でも何度でも 咲こう」
綺麗は結わえて また散るために

ひとつを 一本を掲げて思いを馳せた
愛でていた黄金を 落としてしまわぬように
凍える便りが聞こえても 今のひと時を
大切にして昇華したい この琥珀に

轟く これが最後の鳴りと 遠くに
響きはさ揺らぎに溶けて 突き刺さる
とても とても 会いたくて
何かを まだ見えない景色に その思いの先に
花言葉は 「さようなら」 


どこで縺れたか この路地の暗闇
何も見えないと その先に
不安の感じて そしてやってくる 生ぬるい安堵
ゆだねるは この温度 連れていく 後ろから吹く薫風

「 」

その声は 聞こえないから それだから良いのだ
この言葉に どれほどの想いも 時間も 抱えているものは 誰も知らない
有耶無耶に煙る 捲るこの靄に溶かして
消えていくから だから美しい

頬を撫でている 何処の帰りを待つ風
届きはしない思いは便り 運びはない

委ねる夜 優しさが来る 私を包んでいて
         


自由詩 その優しさの名前は夜 Copyright 黒ヱ 2024-03-18 04:20:21
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