メモ
はるな

たしかな春の日差しを得ました。土曜日、風は必要以上につめたく、でもそれよりも空気のなかに溶けている季節がしきりに春を叫びます。わたしたちは指先をひんやりに染めながら、ねえねえ来たよね、これだよね、と笑い合う。
恋じゃなくてもかまわないと思いながら、寂しい背中に種を蒔きました。花が咲けば良いと思った。
でもそれは小さく、深い森を作って、気持ちをすっかり隠してしまった。
わたしたちは長いあいだ盲目でした。そのことに気が付かないくらい。

長い一瞬ののちに、百年はあっという間にすぎます。いつ森を出たのかは定かではないけれども、わたしは痛みを引き受けて立っています。蓋を開けたり閉めたりしながらここにいます。どこにも行けないと感じるし、ここがどこだかわからないくらいには遠くへ来た。

物語の裾が、やわらかくなびいているのを目の端につかまえて振り向くと、そこにはもうなにもない。
愛している、とつぶやきたくなるのを堪えて、あるものを見ます。見ようとする。これが長い一瞬であるのか、あっという間の百年であるのか、あなたが、どこからきてどこへ行くのか、わたしの指が、何に触れているのか、見ようとします。困難でも、そうするよりほかないと感じます。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2024-03-11 10:27:46
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