鈴絃──いつか誰かが書いた詩
ただのみきや

蟻を踏み 瓜を食む
 夏の熱 まどろみ乱れ

毬を持ち 森を見た
 月の角 しじまに白く


きみといた うたかたを
書きとめる すべもなく
こころ満ち また欠けて
十六夜の 膝枕


  蠱惑な記憶
  まだらにもどり


飴色の ぬけがらを
黒髪に からませて
がんぜない 幼子の
掌に こぼす海


かささぎと 啄木鳥の
羽根ひろい 舟にのる
笹深い 川岸に 
山母の 乳白く


水面に映る
  胸の高鳴り
風の指先 
  よせるさざ波
髪かき上げる
  きみの横顔
ふれる片言 
  かわす口づけ 


山百合は ゆらめいて 
 に通う 蝶は焔に

聞き耳の はるか端
 蝉落ちて 鳴らす水絃みないと


  もどる道なき
  まだ見ぬ淫ら


ことば侍らせ
  人遠ざけて

月から降りる
  蜘蛛さかしまに

歌は幽鬼に
  姿を変えて

まとう薄衣
  闇はほのかに


来る者も 絶え果てて
 価値もなく 朽ちるまま

誰の記憶の 残り香か
 声をからした 名も忘れ


                 (2024年3月9日)








自由詩 鈴絃──いつか誰かが書いた詩 Copyright ただのみきや 2024-03-09 10:30:39
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