ガラクタ
夏井椋也
何度も捨てようとして
捨てられなかったガラクタを
長々と引き摺りながら
早咲きの桜の下を歩く
まだ冷たさを宿した風に
背中を押されるままに
歩道に散らばった花弁を
踏みにじりながら歩く
潔く花弁を捨てて
鮮やかに若葉の衣を纏い
桜は次の季節を
生き抜こうとしている
約束どおり季節は巡るが
約束どおり私は歩けない
果たせなかった約束は
ただのガラクタになる
本当は捨てたくなくて
捨てるふりだけしているガラクタを
長々と引き摺りながら
早咲きの桜の下を歩く
引き摺るガラクタの先端は
六丁目の坂の下まで伸びて
もはや振り返っても
見えなくなっているというのに