ガラクタ
夏井椋也


何度も捨てようとして
捨てられなかったガラクタを
長々と引き摺りながら
早咲きの桜の下を歩く

まだ冷たさを宿した風に
背中を押されるままに
歩道に散らばった花弁を
踏みにじりながら歩く

潔く花弁を捨てて
鮮やかに若葉の衣を纏い
桜は次の季節を
生き抜こうとしている

約束どおり季節は巡るが
約束どおり私は歩けない
果たせなかった約束は
ただのガラクタになる

本当は捨てたくなくて
捨てるふりだけしているガラクタを
長々と引き摺りながら
早咲きの桜の下を歩く

引き摺るガラクタの先端は
六丁目の坂の下まで伸びて
もはや振り返っても
見えなくなっているというのに




自由詩 ガラクタ Copyright 夏井椋也 2024-02-27 18:39:45
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