雨に捨て猫
itukamitaniji

雨に捨て猫

cat
我輩は捨て猫である 段ボール箱を住処とし
人の流れを ここから見ている
名前はもう無い ミケだかタマだか
なんかそんな風に呼ばれてたけど もう無くなった

she
猫を捨てた帰り道 天気は覚えていない
いや確か 雨が降っていたような気がする
いずれにせよ ずぶ濡れで泣いていて
何がどうなったのか よく分からなくなっていた

cat
独りぼっちには慣れている 元々そういう性分だが
こんな自分にも 笑いかけてくれた人が居た
今となっては あの日々も悪くはなかったが
いずれ無くなる温もりなら 知らない方が良かった

she
コンビニでビールを買って アパートに帰った
まだ猫の匂いがする 大好きだった匂い
ひょっとして捨てたのは 私の心かもしれない
愛せなくなる前に 諦めてしまったのだ

cat
排気ガスで 汚れてしまった毛並み
雨が降って 染み付いた汚れを洗い流してゆく
濡れた段ボールの家に 傘を立て掛ける者が居た
そんな物は僕には もったいなくて申し訳ない 

she
気がつくと眠っていたようだ 少し酩酊していて
自分勝手なものだ こんなに独りが寂しいなんて
何事もなかったように ちゃんと後悔していて
まだ明けない町へと アパートを飛び出した

cat
やっと段ボールの家を 抜け出す決心がついた
ここに居たって いつまでも止まない雨
行く先々で 突然の雨を睨む人の目
あの人は濡れていないだろうか ふと思った

she
何もかも遅かったみたい 猫は居なくなっていた
置き去りにされた傘 いつまでも止まない雨
きっと誰か優しい人に 拾われたのだと
都合の良いように解釈して 生きていくしかない


自由詩 雨に捨て猫 Copyright itukamitaniji 2024-02-23 15:59:56
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